精神医学-神経性障害

目次

1 はじめに

神経症は、もともと現実検討力の保たれている比較的軽度の精神疾患の総称である。不安神経症や強迫神経症はその代表的なものであった。かつて神経症は心因性疾患と考えられ、精神分析的な立場からの心理的動的な研究や治療が盛んに行われた。その後、生物学的精神医学の発展などを受け、神経症の原因や位置づけに関して見直しが行われている。

2 神経症という用語

従来使用されてきた神経症 (neurosis psychoneurosis) という用語は、精神的原因 (心因) によって精神的あるいは身体的症状がひき起こされた状態をいう。神経症の精神症状には不安、脅迫神経、心気症、抑うつ、各種の解離性精神症状 (意識障害、小児症など) があるが、身体症状は解離性四肢麻痺のようにあくまで機能的なもので、気質的身体症状が出現するもの、例えば、心的緊張の持続によって胃潰瘍が生じるような場合は心身症 (psychosomatic disease ; PSD) とよばれる。

大熊 輝雄. (2013). 現代臨床精神医学 (改訂第12 ). 金原出版.

3 フロイトの精神分析

  • 人間の思考や行動は意思によって統制された意識された活動だけではなく、
  • 無意識的動機によって規定される部分が大きい。
  • 無意識的な心的葛藤によって神経症、精神病の症状が生じる。
  • 無意識的葛藤は本能的欲動が自我の防衛機制によって抑圧されることによって生じる。
  • 自由連想法など特別な方法によって意識化することによって初めて症状が解消される。

4 神経性障害の分類

4.1 ICD-10

神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害(F40-F48)

F40  恐怖症性不安障害

 F40.0  広場恐怖(症)

 F40.1  社会恐怖(症)

 F40.2  特定の[個別的]恐怖(症)

 F40.8  その他の恐怖症性不安障害

 F40.9  恐怖症性不安障害,詳細不明

F41  その他の不安障害

 F41.0  恐慌性<パニック>障害[挿間性発作性不安]

 F41.1  全般性不安障害

 F41.2  混合性不安抑うつ障害

 F41.3  その他の混合性不安障害

 F41.8  その他の明示された不安障害

 F41.9  不安障害,詳細不明

F42  強迫性障害<強迫神経症>

 F42.0  主として強迫思考又は反復思考

 F42.1  主として強迫行為[強迫儀式]

 F42.2  混合性強迫思考及び強迫行為

 F42.8  その他の強迫性障害

 F42.9  強迫性障害,詳細不明

F43  重度ストレスへの反応及び適応障害

 F43.0  急性ストレス反応

 F43.1  外傷後ストレス障害

 F43.2  適応障害

 F43.8  その他の重度ストレス反応

 F43.9  重度ストレス反応,詳細不明

F44  解離性[転換性]障害

 F44.0  解離性健忘

 F44.1  解離性遁走<フーグ>

 F44.2  解離性昏迷

 F44.3  トランス及び憑依障害

 F44.4  解離性運動障害

 F44.5  解離性けいれん<痙攣>

 F44.6  解離性無感覚及び感覚脱失

 F44.7  混合性解離性[転換性]障害

 F44.8  その他の解離性[転換性]障害

 F44.9  解離性[転換性]障害,詳細不明

F45  身体表現性障害

 F45.0  身体化障害

 F45.1  分類困難な身体表現性障害

 F45.2  心気障害

 F45.3  身体表現性自律神経機能不全

 F45.4  持続性身体表現性疼痛障害

 F45.8  その他の身体表現性障害

 F45.9  身体表現性障害,詳細不明

F48  その他の神経症性障害

 F48.0  神経衰弱

 F48.1  離人・現実感喪失症候群

 F48.8  その他の明示された神経症性障害

 F48.9  神経症性障害,詳細不明

4.2 DSM-5

不安障害群

309.21 分離不安障害

313.23 選択的緘黙

300.29 限定性恐怖症

300.23 社交不安障害

300.22 広場恐怖症

300.01 パニック障害

300.02 全般性不安障害

_.__ 物質・医薬品誘発性不安障害

強迫性障害 および 関連障害軍

300.3 強迫性障害

300.7 身体醜形障害

300.3 ためこみ症

312.39 抜毛症

698.4 皮膚むしり症

心的外傷 および ストレス因関連障害群

313.89 反応性愛着障害

313.89 脱抑制型対人交流障害

309.81 心的外傷性ストレス障害

308.3 急性ストレス障害

_._ 適応障害

解離性障害群

300.14 解離性同一性障害

300.12 解離性健忘

300.6 離人感・現実感消失障害

身体症状症 および 関連症群

300.82 身体症状症

300.7 病気不安症

300.11 転換性障害

300.19 虚偽性障害

5 神経性障害の類型

5.1 恐怖症性不安障害

  1. 広場恐怖症 (agoraphobia)
    1. 概念と症状

      広場恐怖は空間恐怖とも訳され、開かれた空間に対する恐怖だけでなく、群集がいるとか、その場所で呼吸促迫、心悸亢進などの不安発作が起こったとき助けが得られる安全な場所に簡単に避難できない状況など、空間に関連する状況に関する恐怖も含まれる。 例えば、以下が該当する。

      • 1人で留守番をする
      • 家を離れる
      • 店・人ごみ・公衆の場所に行く
      • 列車・バス・飛行機に乗って1人で旅行する

      広場恐怖症は女性に多く、成人早期に発症する。パニック障害を伴うものと伴わないものがある。

    2. 社会不安障害の症状 (social anixety disorder)

      恐怖がほとんどすべての社会的状況で起こるものを全般性、特定の状況だけで起こるものを非全般性に分けている。

      • 人前に出ると緊張しすぎて思うように話ができない
      • 頭の中が真っ白になってどうしたらよいかわからない
      • 身体が振るえ冷や汗がでる
      • このような症状を起こすため、社会的状況からなるべく身を退こうとする。
    3. 特定の恐怖症

      特定の恐怖症の恐怖または回避の対象に基づいて以下の5つの病型を挙げている。

      • 動物型:動物恐怖 (zoophobia)
      • 自然環境型:高所恐怖 (acrophobia) , 暗闇恐怖 , 嵐恐怖 , 水恐怖 , 雷恐怖
      • 血液・注射・外傷型:血恐怖
      • 状況型:公共輸送機関、トンネル、橋、エレベーター、飛行機、自動車運転、排便恐怖
      • その他:閉所恐怖、先端恐怖、不潔恐怖、異性恐怖、窃盗恐怖、自殺恐怖
    4. その他の不安障害 (other anxiety disorder)

      特別の周囲の状況に限定されないで不安が発現するものをいう。

      • パニック (恐慌性) 障害
      • 全般性不安障害
      • 混合性不安抑うつ障害
      • その他の混合性不安障害
      • その他の特定の不安障害
      • 特定不能の不安障害

5.2 パニック障害 (panic disorder)

エピソード (挿間) 性発作性不安 (episodic paroxysmal anxiety) とも呼ばれる。特別な状況や環境的背景に限定されず、したがって予知できずに突然起こる反復性の重篤な不安発作 (パニック発作) を主な病像とする障害である。

  1. 症状
    1. 全身症状
      • 窒息感
      • めまい感
      • 脱力感
      • 冷感
    2. 自律神経症状
      • 動悸
      • 頻脈
      • 胸痛
      • 呼吸促迫
      • 悪心
      • 口渇
      • 発汗
      • 頻尿
    3. 筋緊張症状
      • 振るえ
      • こわばり

      二次症状として、以下がある。

      • 死の恐怖
      • 自分のコントロールを失う恐怖
      • 発狂の恐怖
  2. 経過
    • 最初は1~2の身体症状を伴う症状限定発作
    • 次第に多くの身体症状と強い不安・恐怖を伴う症状限定発作
    • 症状の原因が身体的病気と思い込み病院を訪れる
    • 特定の状況でパニック発作が起こると限定された状況を回避するようになる
    • 広範囲な状況に対して回避するようになり生活動の範囲が狭くなる
    • 能力低下、意気消沈により続発性うつ病に陥る
  3. 病前人格
    • 几帳面
    • 真面目で責任感が強い
    • 緊張しやすい
    • 何かしていないと落ち着かない
    • 否定的な評価を恐れる
    • 自己主張ができない
    • 社会不安が強い人格傾向も指摘されている

5.3 全般性不安障害 (generalized anxiety disorder ; GAD)

  • 全般的な持続的な不安があるが、状況に限られたものではない
  • 強い不安発作もなく、自由に浮動する不安
  1. 症状
    • 心配 (将来の心配、いらいら感、集中困難など)
    • 運動性緊張 (落ち着かない、緊張性頭痛、振るえなど)
    • 自律神経性過活動 (頭のふらつき、発汗、頻脈、呼吸促迫など)
  2. 経過
    • 数週間~数ヶ月間毎日症状が存在する
    • 慢性化することも少なくない

5.4 強迫性障害 (obsessive-compulsive disorder ; OCD)

ICD-10 では強迫性障害を以下のように分類している。

  • 脅迫思考あるいは反復思考を主とするもの
  • 脅迫行為 (脅迫儀式) を主とするもの
  • 脅迫思考と脅迫行為が混合するもの
  1. 症状
    • 反復する脅迫思考
    • 強迫観念
    • 脅迫行為
  2. 病前人格

    強迫性人格 (anankastic character) が重要視される。

    • 几帳面
    • 秩序を重んじる
    • 良心的
    • 責任感が強い
    • 融通性、柔軟性に乏しい
    • 自己不確実で自信に欠ける
    • 些細なことにこだわる
    • 遺伝傾向が強い
  3. 生物学的要因

    セロトニン系の薬物が有効であることから、セロトニンの調節障害が考えられる。

  4. 治療

    一般に難治性。

    1. 薬物療法

      三環系抗うつ薬のうち以下を用いる。

      • SSRI
      • clomipramine
    2. 精神療法
      • 行動療法が中心
      • 曝露、反応防止法が行われる

6 以下についてはそれぞれのリンクを参照。

6.1 重度ストレス反応 および 適応障害

  1. 急性ストレス反応
  2. 心的外傷後ストレス障害
  3. 適応障害

6.2 解離性障害

  1. 解離性健忘
  2. 解離性遁走
  3. 解離性昏迷
  4. トランス および 憑依障害
  5. 解離性運動障害
  6. 解離性けいれん
  7. 解離性知覚麻痺
  8. 混合性解離性障害
  9. その他の解離性障害

6.3 身体表現性障害

  1. 身体下障害
  2. 心気障害

6.4 身体表現性自律神経機能不全

  1. 自律神経失調症
  2. 持続性身体表現性疼痛障害
  3. その他の身体表現性障害

6.5 離人・現実感喪失症候群

7 神経症性障害の発生機序

7.1 一般事項

  • 個体の生命ないし存在が脅かされたときに生じる「不安」がその根底にある
  • 個体側の人格が柔軟性に欠けている
  • 欲求不満に耐える訓練ができていない
  • つまり、個体要因と環境要因の両方の側面をもつ

7.2 個体側の要因

  • 幼少期の親のしつけによるところが大きい (過保護、過干渉) → 欲求不満耐性の低い人格が形成されやすい
  • 生来性素因
  • 脳器質障害の有無
  • パニック障害の場合は、心因だけでなく何らかの身体的要因ないし素因が関与される可能性が示唆されている

7.3 環境要因

  • 家庭、職場、近隣などにおける対人関係の葛藤
  • エディプス・コンプレックス

7.4 準備因子と結実因子

  • 神経症は個体側の要因と環境要因 (心因) との兼ね合いによって発症する
  • これらの要因が長い期間続いて一種の準備状態を形成する
  • 発症発現のきっかけになる結実因子が加わって神経症症状が出現する

8 神経症性障害の頻度と発病年齢

  • 平成26年10月の厚生労働省 「患者調査」資料の神経系疾患の入院患者数は、9.3% (122.2/1318.8 (千人))、2.4% (外来患者数は173.0/7238.4 (千人)) であった。
  • 神経症性障害の好発年齢は、男女とも10歳代後半、20歳代、30歳代に多く、15歳以前や50歳以降には減少する。
  • 女性では男性よりも40歳前後の発症例が多い傾向がある。

9 引用文献

石丸 昌彦, & 広瀬 宏之. (2016). 精神医学特論 (放送大学大学院教材) (新訂). 放送大学教育振興会.

大熊 輝雄. (2013). 現代臨床精神医学 (改訂第12). 金原出版.

American Psychiatric Association. (2014). DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院.

融 道男 and 小見山 実 and 大久保 善朗 and 中根 允文 and 岡崎 祐士. (2005). ICD‐10 精神および行動の障害 - 臨床記述と診断ガイドライン (新訂). 医学書院.

厚生労働省 疾病、傷害及び死因の統計分類    

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著者: Satoshi Takemoto Satoshi Takemoto

Created: 2016-12-02 金 10:32

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