認知行動療法-認知的概念化
目次
1 はじめに
抑うつのパラドックス で示したような患者に対して、治療者が患者を理解するためには枠組みが必要である。その枠組みが認知的概念化 (cognitive conceptualization) である。
2 認知モデル (cognitive model)
認知行動療法は、認知モデルに基づいている。
認知モデルとは、人の感情や行動、そして身体が、その人の出来事に対する理解の仕方によって影響を受ける、という仮説である。
2.1 自動思考
同じ状況であっても人によって捉え方や感じ方、理解の仕方は様々である。人の感じ方を決定するのは、状況ではなく状況に対する解釈の仕方であるという考え方に基づくものである。 例えば、1冊の本を A、B、C、D、E の5人に詠んでもらう場面を想定した場合、以下の様な解釈の仕方があるかもしれない。
- Aの場合、この本は素晴らしい。もっと読んでみたい。
- Bの場合、単純すぎて読む気がおきない。本を閉じた。
- Cの場合、期待外れの本だ。捨ててしまった。
- Dの場合、ここに書いてあることを理解しなければならない。でも理解できなかったらと不安になってしまい、何度も読み返した。
- Eの場合、この本は難しい。なんで私はこんなに頭が悪いのだろうか。私はこれを理解できないだろう。悲しくなりテレビをつけた。
このように同じ1冊の本で5人だけでもこれらのパターンが想定される。これは、読書という状況そのもが人々の感じ方や捉え方を左右しているのではなく、人々が状況をどのように理解しているかによって人によって感じ方が変わるというものである。
人々の感情的な反応は、その人が状況をどのように理解するか、ということに影響を受ける。
上の図にあるように状況や出来事に応じて私たち人間は 自動思考 が働く。そのは 自動思考 の影響により反応として感情や行動あるいは身体に現れる。例えば、本を読んでいるときに思考には2つの層がある。
- 一つめは、本に書かれている情報に集中し、理解してまとめようとする思考
- 二つめは、その読んでいる本に対する評価をしようとする思考
上記の2番目の思考を 自動思考 と呼ぶ。この 自動思考 というものは、熟考したり推論したりした結果導かれるものではなく、もっと早く、短い時間で自動的に沸いて出てくる。普段、我々が意識することはない。したがって、自動思考の結果が疑いなく正しいものとして我々は行動している。
うつ病のパラドックス でも述べたとおりであるが、喪失感が抑うつをまねいているのであるから、 自動思考 の修正を行うことにより、別の考え方や捉え方ができれば抑うつ状態を少しでも軽減するあるいは無くすことができるのではないか。
そこで、必要になるのが 自動思考 の同定ということになるのであるが、その前に 自動思考 はいったいどこから生じるのか?
同じ状況下にあっても人によって異なる場合、その違いの原因は何だろうか?
この問いに対して深く関係しているのが、信念 (belief) というより永続的な認知的現象であると言われている。
2.2 信念
中核信念 → 媒介信念 (規則、ルール、思い込み) → 自動思考 → 反応 (感情、行動、身体)
2.2.1 媒介信念 (規則、ルール、思い込み)
自動思考 を考えていると、 自動思考 はどのような過程を経て作られていくのだろうか? と、疑問が生じる。アローン・T・ベック は以下のように言っている。
私たちは、個人個人が同じ状況下できわめて異なった行動をとる可能性があるということを、自分なりに観察して知っている。私たちは、ある状況に置かれたときにそれぞれ異なった解釈を下し、明らかに異なった "自己指示" を行っていることにも気付いている。しかも私たちは、ある重要なところに共通点がある多くの状況で、1人の人が決まった反応をする傾向があるということにも気付いている。そうした反応が簡単に予測できることから、それにもとづいてその人の性格的な特徴を表現するようになる場合も多い。「彼は恥ずかしがり矢で臆病だ」「彼は感受性が無く攻撃的だ」
このように1人の人が一貫して同じような反応をするという観察結果から、特定の状況に対する反応を決める一定の一般規則がそれぞれの人の中にあるという可能性が考えられる。その規則は、表面化する行為の指標となるばかりではなく、その人特有の解釈、予期、自己指示の基礎にもなる。しかもそうした規則は、その人が自分の行為の有効性と妥当性を判断し、自分の価値と魅力を評価する基準にもなってくる。自分の目標を達成し、身体的または心理的な傷つきから身を守り、他の人と安定した関係を保つためにこうした規則が用いられるのである。
人間は、自分の行為の指標として、そして自分や他人を評価する基準として、精神的規則とでもいえるようなものを使っている。
人間は具体的な経験にしたがって一般規則を導き出す。
2.2.2 中核信念
中核信念は、信念の中でも最も基底的な層にあり、包括的かつ固定的で、過度に一般化されている。それに対し、自動思考は、特定の場面で頭に浮かぶ言葉やイメージそのものであり、最も表層的なレベルにある認知である。
中核信念は、上記で説明した、中間層の媒介信念に影響を与えるコアなものである。
2.3 認知行動療法の進め方
中核信念から引き起こされる自動思考を同定したり修正したりすることに焦点をあてていく。
以下について、患者に伝える。
- 信じていることが必ずしも真実であるとは限らない
- 現実的で役に立つ方向に思考を変えることにより、気分が回復し、目標に向けて前進できるだろう
表層的な認知を対象とするワークを通じて安堵するという経験を積み重ねるうちに、患者は非機能的な思考の背景にある信念そのものを検討することを、次第に受け入れられるようになる。すなわち非機能的な思考に関連する媒介信念と中核信念が、様々な方法で評価され、それらの信念は修正される。その結果、出来事に対する患者の感じ方や結論づけのやり方が変化する。より深く根本的なレベルの信念をしっかりと修正しておくことは、将来の再発率の低下にもつながるだろう。
2.3.1 自動思考と行動
中核信念や媒介信念が人の行動に影響を与える。言い換えれば、具体的な状況に対する認知に影響を与えるということになる。
前述した自動思考の例で E の場合について考えてみる。
" Eの場合、この本は難しい。なんで私はこんなに頭が悪いのだろうか。私はこれを理解できないだろう。悲しくなりテレビをつけた。"
- 中核信念 「自分は無能だ」
- 媒介信念 「失敗は恐ろしい」
- 規則 「課題が難しければ、諦めてしまう方がよい」
- 思い込み 「私が何か難しいことに取り組んだら失敗するだろう。だから、取り組むこと自体を避ければ、私は大丈夫だ」
- 状況 「本を読み始める」
- 自動思考 「この本は難しい。なんで私は頭が悪いのだろう。私はこれを理解できないし、やらない方がよい」
これらの反応は以下のとおりである。
- 感情:失感情
- 身体:身体が重い
- 行動:本を読むのを止めて、テレビを見る
ここで大事なことは、もし、E が自らの思考に対応できるようになれば、感情、身体、行動の何れもがポジティブに機能することができる。
3 引用文献
アーロン・T・ベック. and 大野 裕. (1990). 認知療法 - 精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ), 岩崎学術出版社.
石丸 昌彦. and 広瀬宏之 (2016). 精神医学特論 (放送大学大学院教材), 放送大学教育振興会.
大野 裕. (2011). はじめての認知療法, 講談社現代新書
坂野 雄二. (2003). 認知行動療法, 日本評論社.
ジュディス・S・ベック (2015). 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト‐, 星和書店.
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