心理統計法-ノンパラメトリック検定(1)
目次
1 はじめに
特定の母集団分布を前提としない、汎用的な検定方法がノンパラメトリック検定である。
2 特徴
1) 従属変数の母集団分布として正規分布など特定の分布を仮定しないため、データが正規分布から大きく外れていても利用できる。
2) 平均値ではなく観測値の順位付けがよく利用されるので、従属変数が順位尺度であっても適用可能である。
3) 母集団の正規性を仮定することが難しくなる場合にも利用可能である。
3 性質
1) 従属変数の分布によって検定結果が大きくされない。
2) 外れ値による影響もほとんど影響をうけない。
3) 正規分布を仮定できるデータに対してはパラメトリック検定の方が検定力が高くなることが多い。
4) 両群の散らばり具合が大きくなる場合には、第一種の過誤の危険性が顕著に高まることが明らかにされている。
5) 等分散が保たれない場合はノンパラメトリック検定を行うことは推奨されない。
4 使い方
1) データに対応がない & 1要因2水準 の場合:Mann-Whitney の U 検定 または メディアン検定 (対応のない t検定)を用いる。
2) データに対応がない & 1要因3水準 の場合:Kruskal-Wallis の H 検定 を用いる。
3) データに対応がある & 1要因2水準 の場合:Wilcoxon の符号順位和検定 を用いる。
4) データに対応がある & 1要因3水準 の場合:Friedman 検定 を用いる。
5 対応のない2水準間の比較 U 検定
以下の表1に示したデータを用いて U 検定を行ってみる。
表1 データ表示
\(A群\) | 2 | 4 | 3 | 5 | 5 | 3 | 4 | 3 | 1 | 4 |
\(B群\) | 2 | 2 | 1 | 1 | 4 | 1 | 5 | 2 | 1 | 2 |
5.1 手順
1) 両水準の観測値を一つにまとめる。数値が小さい方から1~N位までの順位に置き換える。
2) 同値の観測値がある場合、平均順位をあてる。
3) 両群の順位和を求める。
4) 順位和を用いて検定統計量 U値を求める。
5) 判定する
5.2 両水準の観測値を一つにまとめる
表2 観測値を一つにまとめる
観測値 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 5 | 5 | 5 |
順位 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
平均順位 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 12 | 12 | 12 | 15.5 | 15.5 | 15.5 | 15.5 | 19 | 19 | 19 |
5.3 2水準に分割する
表3 順位を2水準に分ける
\(A群\) | 8 | 15.5 | 12 | 19 | 19 | 12 | 15.5 | 12 | 3 | 15.5 |
\(B群\) | 8 | 8 | 3 | 3 | 15.5 | 3 | 19 | 8 | 3 | 8 |
5.4 順位和を計算する
データA群の順位和を \(Ra\), B群の順位和を \(Rb\) として、\(Ra\), \(Rb\) を計算する。
\(Ra\) = 131.5
同様に、\(Rb\) = 78.5
5.5 検定統計量 U を求める
\(Ua\) = \(23.5\) となる。
\(Ub\) = \(76.5\) となる。
5.6 U 検定
上述の \(Ua\), \(Ub\) のうち小さい値を検定に用いる。この場合は、\(Ua\) を使う。
また、小標本では U値の有意水準について数表を参照するが、大標本の場合は帰無仮説のもとで、以下の式を使う。
上の式は、標準正規分布に近似的に従う性質を持つため、この数式を用いて U値 をz値に変換することで有意性を判定できる。
ただし、この例題の様に両群間で同値の観測値がある場合は、次の式のように分母を修正してz値を求める。
ここで、\(g\) は同順位の組数、\(ti\) は同順位だった \(i\) 番目の組にいくつの観測値が含まれていたかを表す。
ここでは、1から5すべてに同値の組があったので、\(g\) = \(5\), 同値だった観測値の数はそれぞれ、\(t1\) = 5, \(t2\) = \(5\), \(t3\) = \(3\), \(t4\) = \(4\), \(t5\) = \(3\) となる。この式に数値を代入すると、\(z\) = -2.048 となる。
以上により、両側検定における上側確率 \(p\) = \(.41\) となり、帰無仮説は棄却される。
故に、両水準の差は有意といえる。
6 引用文献
小野寺 孝義. (2015). 心理・教育統計法特論 (放送大学大学院教材), 放送大学教育振興会.
田中 敏, 山際 勇一郎. (1992). ユーザーのための教育・心理統計と実験計画法 - 方法の理解から論文の書き方まで, 教育出版.